がんの緩和ケアとチームについて
がん患者さんは、がん自体の症状のほかに、痛み、倦怠感などのさまざまな身体的な症状や、落ち込み、悲しみなどの精神的な苦痛を経験します。「緩和ケア」は、がんと診断されたときから行う、身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケアです。
緩和ケアは、病院によって違いはありますが、がん診療に携わる医師、看護師などがチームとなって、がん患者さんとその家族を支援します。
まず、医師です。主治医だけでなく、緩和ケア専門医がつくこともあります。
そして、看護師。こちらも、担当看護師だけでなく、緩和ケアに関する専門的知識や技術を持った緩和ケア認定看護師がいると心強いですね。
薬剤師と管理栄養士が関わることもあります。薬剤師は痛みなどの症状をコントロールするための薬について提案や説明をします。管理栄養士は食事についてのアドバイスを行います。
ソーシャルワーカーや心理職の人が関わり、経済面や福祉制度のサポートを行ったり心理学的立場から患者さんとそのご家族を支えることもあります。
そして最後に、理学療法士と作業療法士の存在があります。がんの治療や症状によって、今までのように体が動かなくなってしまったときに、残された身体機能を最大限に活用して生活をしていくため、リハビリテーションを行っていきます。
これらのチームが一丸となって、がん患者さんに対して緩和ケアを行っていきます。今回は作業療法士にスポットを当てて、仕事内容について見ていきましょう。
作業療法士の仕事・役割について
がん患者さんへのリハビリでは、患者さんと介護する家族のQOL(quality of life)が向上することを目的としています。
ですが、ひとくちにQOLと言っても、進行がんの患者にとっては「回復して社会生活が送れるようになること」を指すとは限りません。「穏やかに残された日々を過ごすこと」「最後までできるだけ人に迷惑をかけずに生きること」などが目的の人もいます。
患者さん一人ひとりの目的を明らかにし、具体的な選択肢や道筋を与えるのが作業療法士の重要な仕事です。
例えば「一時帰宅がしたい」という患者さんの希望が、医療的に見れば体に負担がかかることであることも少なくないため、医師からはなかなかゴーサインが出ないことも多い。そんな時、医学的な知見を持ち、人の生活を作業として分析できる作業療法士は「このようにすれば、体の負荷を最小限にして患者の希望をかなえることができる」という方法を、具体的に提案することができます。
そのためにリハビリテーションのプログラムを組み立て、実施していくことによって、患者さんの希望を叶えることに繋げていきます。
また、がん医療において、患者さんの苦痛をより理解するためには、トータルペイン(全人的苦痛)の概念を理解することが重要なポイントです。
患者さんの抱える問題は身体的苦痛のみではありません。不安や抑うつなどの精神的なトラブル、家族や職業に関する社会的不安、生きる意味や死との直面などの悩みがあり、これらが複雑に絡み合っていることを意識する必要があります。これも作業療法士の重要な役割の一つです。
精神面を支えるリハビリテーション
緩和ケアを行う時期は、積極的な治療が受けられなくなった時期とも言えます。そのため、精神的にふさぎこんでしまう患者さんも多くいます。
患者さんは少し動いただけでも疲れるので動かなくなり、日常生活のさらなる制限をもたらす悪循環におちいり、やがては寝たきり(廃用症候群)になってしまいます。そして食欲不振や倦怠感がさらに増してしまう結果になります。
これらを改善するために、精神面を支えるリハビリテーションが必要になってきます。マッサージやリラクセーション、イメージ療法、アロマセラピーなど「非薬物療法」とよばれる療法を取り入れることもあります。また、在宅療法で患者さんの精神回復を優先する場合もあります。
そして、がんのリハビリは患者さんだけでなく、ご家族に対しても提供されるものです。適切な介護の方法を教え、患者さんが動きやすいように手すりをつけるなど生活環境を整備することは、介護者が自宅で看病する際の負担軽減に確実につながります。
このように、がんのリハビリテ―ションにおける作業療法士の役割は大きく、身体面・精神面の両方で患者さんを支える重要な仕事です。